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「経済成長戦略としての医薬品及び健康食品に関わる流通の規制緩和」についての意見書

平成25年6月11日

一般社団法人 保険薬局経営者連合会

会長 山村真一



本 文


  少子高齢化が進む我が国の経済成長のために、医療/社会保障分野の成長が必須であることは論を俟たない。このうち、医療分野が経済成長に寄与する要因は、主に
   1. 元気に働ける国民を増やす
   2.医薬品や医療機器を国外に輸出する
の2点に集約される。このうち、1.については、我が国の国民皆保険制度が国民の医療へのフリーアクセスを維持する上で極めて効果的であり、この制度を維持するためには、高齢化にともない増加していく医療の需要に対して国民から集められた保険料を適正に配分していく仕組みが求められている。以上を前提として、

1. 安倍内閣が成長戦略第三弾として「 消費者の安全性を確保しつつ、しっかりしたルールの下で、全ての一般医薬品の(インターネット)販売を解禁する。」と発言したことについて、医薬品の流通チャンネルを緩和することは医薬品の売上高の企業間の配分が変わるだけであり成長に資することはないという理由で、反対する。

2. 高リスクのOTCの再処方せん薬化は、逼迫する医療費の不適切な配分に他ならないため、反対する。

3. 規制改革会議において「一般健康食品の機能性表示を可能とする仕組みの整備 」として議論されている点について、「健康食品市場の規模の拡大が医療費の軽減につながる」という事実はないという現状を鑑み、健康食品の適正な情報提供のあり方について提言する。

4. 最後に、疲弊している医療現場の崩壊を防ぎ、医療費を適正に配分するために、薬剤の自己負担率を一律3割ではなく変動化させ、保険診療の作業の一部を薬局へ委譲することを提言する。


説 明


1.「消費者の安全性を確保しつつ、しっかりしたルールの下で、全ての一般医薬品の(インターネット)販売を解禁する」ことについて、医薬品の流通チャンネルを緩和することは医薬品の売上高の企業間の配分が変わるだけであり成長に資することはないという理由で、反対する。

(1) インターネット販売は国内企業の成長要因とはならない。
我が国で最大規模の通販サイトは海外の企業(アマゾン)である。アメリカのAmazon.comでは仮想店舗ではなくAmazon.com本体が医薬品を販売し、送料無料で当日配達まで行う。日本でネット通販を解禁した場合に、国内通販サイトの売上高又は手数料収入が多少は増えることは期待されるものの、それ以上の売上高が国内企業から海外企業に移転するため、現在の通販市場の環境下でインターネット販売の解禁が我が国の経済成長に資することはないと予想される。

(2) インターネット販売は医療費を増加させる。
医薬品供給の歴史を辿ってみると、私たちの業界はこれから訪れるであろう未来を既に経験済である。かつてOTCを通じて軽医療を担っていた町の薬局は、ドラッグストアの登場で採算が取れなくなり撤退を余儀なくされ、現在OTC供給の場はドラッグストアにシフトした。今後インターネット販売が拡大すれば、ドラッグストアもかつての薬局と同じ道を辿り、OTCでの採算が取れなくなってしまい、在庫を維持できなくなる。その結果消費者はOTCの購入に困難を極め、その結果軽微な疾患でも医療機関を受診せざるを得なくなってしまう事が十分予想される。
本来の薬局の経営努力とは、「医薬品の販売高をいかに増やすか」ではなく「いかにして医薬品を使わずに済ませるか」であり、不良在庫を消費者に売りつけるようなインセンティブが存在してはならない。同じ目的のために、保険診療において薬剤師は患者が使い残した医薬品を回収し、在宅医療において医薬品の適正使用に積極的に関わり、国も在宅医療を推進しているはずである。

(3) 医薬品のインターネット販売に関わる責任の法体系が整備されていない。
医薬品の安全性は薬剤師と薬局が担保するものであり、利用者に有害事象が発生した場合にはその責任を薬剤師と薬局が負う。その安全性を薬局が出店する通販サイトや行政が担保するのであれば、たとえば「しっかりしたルール」を通販事業者が遵守しなかった場合に関する罰則規定などを、インターネット販売を解禁する前に明確に法令化するよう要求する。

(4) インターネット販売は医薬品のフリーアクセスの改善につながるとはいえない。
薬を本当に必要とする世代、特に国民医療費の55.4%(平成22年度)を使用している65歳以上の世代へのOTCのフリーアクセスを改善するためには、インターネット販売よりも薬局薬剤師によるOTCの訪問販売について規制緩和するほうが効果的であり、同時に過剰な保険診療を抑制することが期待できる。


2. 高リスクのOTCを処方せん薬化することについて

薬局で買えば医療費はかからないものを、わざわざ医療機関に出向いて処方してもらわなければ買えないという仕組みに戻すのは、直接の消費者に時間や診察代といった負担を強いるだけでなく、本来ならばもっと時間を割いて診察してもらわなければならない患者の待ち時間を増やし、医療機関の事務負担も増加させることになり、本末転倒である。


3. 一般健康食品の機能性表示を可能とする仕組みの整備

「国民が健康食品を買おうとしても情報が得られない」という規制改革会議での意見は妥当であるが、必要な情報とは効能書きではなく「どの程度有効なのか」であり、医療費を抑制することを目的としてセルフメディケーションを推進するのであれば、販売者が「この製品によってどの程度保健医療費を抑制することが期待されるのか」を示すべきである。当団体は医療費の適正配分を目的とする限りにおいて、薬局でこのようなタイプのデータを収集する際に協力することができる。


4. 薬剤の自己負担率を一律3割ではなく変動化させ、保険診療の作業の一部を薬局へ委譲すること

OTCの市場規模が拡大することは、急増する医療費の抑制にはつながっていない。OTCを使用している消費者が保険診療を使わないというインセンティブは存在せず、逆にOTCを購入している患者に処方医が処方せんを発行するという「サービス」が日常的に行われているのが現状であり、OTCと保険診療という極端な二重価格を解消することが、医療費の抑制のために必要である。そのために、OTCで販売されている医薬品については、医師の処方の裁量を守るために保険扱いからは外さず、自己負担率を引き上げてOTCと同等の自己負担額とすることにより、医療費を抑制しつつOTCを利用するインセンティブを与えることができるようになる。これによって「薬をもらうため」だけのためにわざわざ医療機関に受診する患者の手間、処方せんを発行する医療機関の負担を軽減することができる。



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